和歌と俳句

如月 きさらぎ

きさらぎやふりつむ雪をまのあたり 万太郎

茂吉
きさらぎはそこはかとなく過ぎ行けりわが北窓のべに砂たまりつつ

きさらぎの墨滓固き硯かな 蛇笏

如月の大雲の押す月夜かな 蛇笏

きさらぎの門標をうつこだまかな 蛇笏

きさらぎの一夜をやどる老舗かな 蛇笏

如月の仏足石を拝すかな 喜舟

きさらぎやうぐひすもちの青黄粉 万太郎

如月や雪のる杉の花ざかり 月二郎

きさらぎの黄塵壁の鋲ひかる 彷徨子

きさらぎの風塵たちぬ墓籬 麦南

きさらぎの風塵雨をこばみけり 麦南

きさらぎの捨てて火ばしる炉灰かな 麦南

茂吉
ほそき月おちて行きたる二月の虚しき空をわれはあふぎぬ

茂吉
ひとりしてわれの入り来し山中の落葉おとするきさらぎの雨

如月や白菜の光沢鼈甲に 茅舎

きさらぎの口紅すこし濃かりけり 万太郎

如月や十字の墓も倶会一処 茅舎

くりかへし如月はよむ兵の文 鷹女

夜の明けて小雨しばしもきそさらぎ 石鼎

きそさらぎ天のたまものかずかずに 石鼎

大天に日車めぐりきそさらぎ 石鼎

何といふ宵ながながしきそさらぎ 石鼎

きさらぎの運河日輪を真上にす 林火

喪の家にありきさらぎの藪濃ゆし 信子

きさらぎの簷に陽あたる陽の硬さ 信子

きさらぎの水のひゞきを夜も昼も 信子

きさらぎの夕月映る水ひゞく 信子

きさらぎや白うよどめる瓶の蜜 蕪城

如月の雲にこもりて一機音 楸邨