天辺に一羽鴉や雪解風
雪解や湖舟に洗ふ旅硯
空山を煙上るや東風の空
かなしみに溺れて生くる弥生かな
鶯や香焚くひとの眉静か
日静かに野を吹く風や豆の花
花葱に暮春の靄や鴉啼く
春さむや庵にととのふ酒五合
いたつきや庵春さむき白衾
筆つくるよすぎ静かや梅二月
夕野火や降り出し雨のしめやかに
梨花の月さし入る庵の筒井かな
数珠買ひに僧とつれだつ暮春かな
しらぬひの筑紫小島の野火けむり
畠畦や茶の木がもとの花菫
防人の歌誦して摘む磯菜かな
磯菜つみ春の雷雨にぬれにけり
春の雷漁邑の運河潮さしぬ
摩崖仏春たつ雲のながれけり
図書堆裡春たつ塵の微かなる
雪国の春こそきつれ蕗の薹
苗木市春の粉雪となりにけり
きさらぎの風塵たちぬ墓籬
きさらぎの風塵雨をこばみけり
きさらぎの捨てて火ばしる炉灰かな