和歌と俳句

西島麦南

走馬燈ながるるごとく人老ゆる

芭蕉風吹いて塵浮く手水鉢

魚板うてば四山相応ず今朝の秋

黍刈るや高原の土秋暑し

帰燕とぶ空を見て干す漆壺

山墾いて杣も農たり芋の秋

穀蔵を出て山明るし櫨紅葉

菊の灯に酌む雪寃の面かな

痢人の手触れてをののく芙蓉かな

笑ふときかなしき顔や秋扇

眉剃つてかんばせ広し秋の風

こむる四山や湖舟静かなり

稲刈るや連山四顧の秋濶し

豊かなる国土の日かな稲の花

掃苔の埃あげたる箒かな

庵の塵掃きとる秋の団扇かな

さらさらと風たつ笹の秋日かな

秋風やおとなふ庵の藪がくれ

秋の夜の身になれそめし衾かな

夕霧や家路に馬のおとなしき

山風にもまるる影や鳥おどし

うつしみをいとほしみ張る障子かな