和歌と俳句

西島麦南

秋の夜の酒さめやすく臥たりけり

夜寒の戸熊手をつくる灯のみえぬ

掛稲に靄ぬくぬくとながれけり

障子はる窓辺の芙蓉実を古りぬ

霧籬木槿は花を尽くしけり

山彦にさからひやまず霧の

槻の根や霧にうたれて秋の蝶

霧雨にぬるるそびらや牛蒡ほり

霧すさぶ月の簗瀬となりにけり

菊の月夜々に輝きまさりけり

うつくしくつめたき顔や菊人形

蝗熬る炉のかぐわしき門過ぎぬ

掃きとりて花屑かろき秋うちは

漕ぎわたる波逆浦辺の夕蘆火

柚味噌やく閻浮檀金の焔かな

あきつとぶひかり薄れつ夕鳴子

いざよひの薄雲情あるごとく

一壺酒に仲秋無月なるもよし

雁高し芭蕉を破る風の爪

既知未知の人生燈火親しけれ

菊人形泣き入る声のなかりけり

迎火や六親風のはるかより