わがこころ いつしか和み あかあかと 冴えたる月の のぼるを見たり
あまつ日の 無くなることを 悲しみて 踊りし神代 おもほゆるかも
みちのくの 最上高湯の 湯の花を おろそかにせじ 人のみなさけ
みちのくの 雪解のみずの とどろくと 告げこし友を 我はおもはむ
われひとり 眼みひらく 小夜ふけに 近くをとほる 兵の足おと
赤彦は いまごろ痛み ふかからむ 赤彦をしまし ねむらせたまへ
ひたさむき 大つごもりの 銀座にて 独楽など賣るを しまし見守りぬ
帽とりて われは立ち居り 目のまへを 大臣加藤の 柩とほりぬ
をさなごの 赤羅日来る」両頬を 我は見て居り 寒き朝明に
みちのくに 大雪ふりて ひとの住む 家つぶれぬと 聞くぞかしこき
すゑ風呂に ゆあみしをれば 目のまへに きさらぎの夜の 月かたぶきぬ
しづかなる み寺のなかに おもふどち ひとつ心に 君を偲びつ
行春の 部屋かたづけて ひとり居り 追儺の豆を われはひろひぬ
湯のなかに く浮かしし あやめぐさ 身に沁むときに 春くれむとす
わが友は 信濃の国に みまかりて ひたすら寂し この逝春を
みちのくの 便りきたりて 大き蛍 とびそめたりと いふがかなしき
あかねさす 晝野の草に こもりたる 蛍か飛ばむ きよき夜空は
久方の 空よく晴れし けふの日や 師のみ墓べに 吾等来りし
うつし身と 生きのこりつつ 春山の この寂しさに 堪へざらめやも
眞夏の 来むかふときに き草の しげりがなかに 立ちもとほろふ
むなしき空にくれなゐに 立ちのぼる 火炎のごとく われ生きむとす
いつしかも あかあかとして 月てれる 檜原の山に 夜の鳥ぞ啼く
うつそみの 悲しむごとし 月あかき 山の上にして ひびかふ鳥よ
月よみの 光くまなき 山中に 佛法僧といふ鳥啼けり
山のうへに 光あまねく 月照りて 眞木の木立に きほひ啼く鳥