齋藤茂吉

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あたらしき 年のはじめは 楽しかり わがたましひを 養ひゆかむ

富人を 憂しとにくしと おもはねど 貧しきっひとを われはおもへり

おのづから 心つかれて 我は居り われに五十の 年明けにけり

すめらぎも おみのみたみも ぬかづかむ かみのやしろに ゆきふりにけり

しらゆきの ふりつもりたる やすくにの かみのやしろに まうづるやたれ

みちのくの いではのかみの ほこすぎの えだもとををに ゆきはふりける

いまのうつつに 富み足らひたる ひとびとの 名を読みをれば 夜ふけにけり

こころ憂き 世にしいくれど たまたまは 富みてゆたけき 人の面見む

富みたるは なべて相人の いふごとく ゆたけき運命の 相を持つらむ

けだものの 穴ごもりして ゐるごとく 布団のなかに 吾は目を開く

あらあらしく なりし空気と おもひつつ 追儺の夜に 病み臥して居り

ものの音 けどほくなりて ゆけるらし みなぎりにつつ 墓地にふる雪

ゆふぐれの 薄明にも 雪のまの 土くろぐろし 冴えかへりつつ

ふりつもる 雪のものなかに われ立つや 衢のかたは 鈍きものおと

このゆふべ 徳川の代に ありしとふ 恋愛劇を見て 涙をおとす

本所を 序ありて来し われの後へより 労働者等の 靴音ぞする

熱いでて いとけなき子は 目ざめてり 低き屋根より 雪はなだれつ

和歌と俳句