銀杏の芽こぼれて伝ふ乳房かな
岨の道くづれて多羅の芽ふきけり
花大根黒猫鈴をもてあそぶ
そぞろ出て蕨とるなり老夫婦
ふかぶかと森の上なる蝶の空
泣き虫の父に眩しや蝶の空
蝶の空七堂伽藍さかしまに
蝶々にねむる日蓮大菩薩
一蝶に雪嶺の瑠璃ながれけり
石段を東風ごうごうと本門寺
足のうらそろへ給ひぬ涅槃像
土不踏ゆたかに涅槃し給へり
誰が懐炉涅槃の足に置きわすれ
花の奥鐘の響を撞きにけり
鶯のどこかに鳴いて蝶一つ
あかあかと彼岸微塵の仏かな
如月や白菜の光沢鼈甲に
雪の上ぽつたり来たり鶯が
石上に廓然と雪残りをり
武蔵野を初蝙蝠は東風に乗り
枝垂梅初蝙蝠のひらめきぬ
鶯の高音ひねもすチウリツプ
ぼうたんの芽と大石の影と濃し
一聯の目刺に瓦斯の炎かな
常不軽菩薩目刺を焼きにけり