何事ぞ手向し花に狂ふ蝶 漱石
一葉
誰が夢を出でてきぬらん桜花匂へる園に遊ぶこてふは
蝶蝶や順礼の子のおくれがち 子規
ひらひらと風に流れて蝶一つ 子規
蝶ひらひら仁王の面の夕日かな 虚子
ひらひらと蝶々黄なり水の上 子規
二つかと見れば一つに飛ぶや蝶 漱石
初蝶や菜の花なくて淋しかろ 漱石
蝶々のもの食ふ音の静かさよ 虚子
白き蝶をふと見染めけり黄なる蝶 漱石
野路はれて蝶を埃と見る日かな 虚子
晶子
自らの心のごとくいちじろし金錆色のさびしき胡蝶
高潮の夏めく風に蝶々かな 碧梧桐
高々と蝶こゆる谷の深さかな 石鼎
園深し雀を逃げて人に蝶 虚子
浜風になぐれて高き蝶々かな 石鼎
光と影ともつれて蝶々死んでをり 山頭火
谷深く烏の如き蝶見たり 石鼎
蝶高く落ち来て草に分れけり 石鼎
蝶人を隔てゝひろき虚空かな 石鼎
日没むや草を痛みて蝶白し 石鼎
しろじろと蝶の舞ひ出し杉生かな 草城
大阪の街中に見し蝶々かな 櫻坡子
煽られ来し蝶に面引きぬこころもち 汀女
蝶の翅うすむらさきの四枚かな 櫻坡子
蝶々や庫裡古ければ藪古く 喜舟
蝶々やかゞまり話す間より 爽雨
蝶々や読みて立つ碑のうしろより 櫻坡子
とびそめし蝶に雨だれなほしげく 櫻坡子
日輪を飛び隠したる蝶々かな 虚子
三つとんで風に巴の蝶々かな 石鼎
初蝶に見し束の間のかなしさよ たかし