和歌と俳句

日野草城

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

ふりあふぐ黒き瞳やしやぼん玉

落凧を引き寄す草の暮色かな

しろじろとの舞ひ出し杉生かな

夕蛙叡山實に淡いかな

暮れ悩む海の明るさ鳥帰る

佛暁の井戸軋らすや鳥帰る

さくら鯛砂へ刎ねたるいさぎよさ

ほがらかに啼きぬ風の中

や朝の雨ふる小篁

うぐひすのふたこゑなきぬゆふまぐれ

つばくらに水音高く濯ぎけり

薄荷酒に口のすずしさつばくらめ

猫の子のつくづく見られなきにけり

庖丁の含む殺気や櫻鯛

夕晴や寒き木の芽のうすみどり

白梅に斜めなる日のあたり侘ぶ

咲き満ちてほのかに幽し夕椿

落椿ころがり侘びて根のほとり

松風に吹かれて白きかな

花過ぎて松翠もとの如くなり

花更けて篝落しぬ月あかり

浅き夜ややがての月に花静か

満月の照りまさりつつ花の上

高々と雨意の木蓮崩れけり

木蓮の吹かれ吹かれてかがやける