松の花天の橋立風立ちぬ
そよ風のみゆる白藤あふぎけり
古蘆や波の光に角ぐめる
ひねもすの石屑とぶや濃山吹
連翹に白き鳩ゐて動きけり
春蘭の垂り葉とどける真砂かな
朝の茶のかんばしく春立ちにけり
啓蟄やはればれとして東山
春寒や松ばかりなる砂の庭
引眉のほそぼそとして春寒し
春暁や雨を疑ふ妻の耳
春昼や炊煙あぐる奈良ホテル
くしけづる音のかそけく春の昼
もろびとに覩られて巫女の日永かな
永き日や巫女のかんばせしなさだめ
潮さげて遅日の汀すすみけり
遅き日の校倉は古りほうけたる
ひるがへるくちびる紅し春の宵
手をとめて春を惜しめりタイピスト
みちわたる潮のしづかな朧かな
うつくしき衾にひびく春の雷
淡雪やかりそめにさす女傘
春雨や八坂の塔の下をゆく
堀川のあかつきさしぬ春の雨
白良浜の砂に道あり春の雨