和歌と俳句

日野草城

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朧夜や人にも逢はず木の間征く

大橋の向ふ細りにかな

林泉のや明き燈一つ

残雪にこぼるる杉の枯葉かな

残る雪うす汚れして日和かな

明るみて月夜となりぬ春の海

日かげりて浪曇りけり春の海

春泥や四條五條の人通り

丸善を出て暮れにけり春の泥

霽れ際の明るき雨や苗代田

春の灯や女は持たぬのどぼとけ

春燈や朱墨の濃さもこころよく

春愁や葉ごもり椿ひそと落つ

春愁や葉勝ちとなりし花の雨

乾きたる葉のけうとさよ櫻餅

さくら餅うち重なりてふくよかに

白酒の酔のほめきに灯りたる

春の夜や都踊はよういやさ

うららかに妻のあくびや壬生念仏

遠野火や寂しき友と手をつなぐ

潮干狩夫人はだしになり給ふ

ものの種子にぎればいのちひしめける

のほそりほそりて樹の暮情

踏む麦の夕焼けて来し寂しさよ

しやぼん玉こころもとなくふくれけり