朧夜や人にも逢はず木の間征く
大橋の向ふ細りに朧かな
林泉の朧や明き燈一つ
残雪にこぼるる杉の枯葉かな
残る雪うす汚れして日和かな
明るみて月夜となりぬ春の海
日かげりて浪曇りけり春の海
春泥や四條五條の人通り
丸善を出て暮れにけり春の泥
霽れ際の明るき雨や苗代田
春の灯や女は持たぬのどぼとけ
春燈や朱墨の濃さもこころよく
春愁や葉ごもり椿ひそと落つ
春愁や葉勝ちとなりし花の雨
乾きたる葉のけうとさよ櫻餅
さくら餅うち重なりてふくよかに
白酒の酔のほめきに灯りたる
春の夜や都踊はよういやさ
うららかに妻のあくびや壬生念仏
遠野火や寂しき友と手をつなぐ
潮干狩夫人はだしになり給ふ
ものの種子にぎればいのちひしめける
囀のほそりほそりて樹の暮情
踏む麦の夕焼けて来し寂しさよ
しやぼん玉こころもとなくふくれけり