和歌と俳句

日野草城

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青苔にほつりほつりと落つる花

木蓮のはつきり白し雨曇

大椿なりをしづめて花ざかり

春日野や夕づけるみな花馬酔木

山の娘のすこやかにゆく躑躅かな

連翹に月のほのめく籬かな

春蘭や耳にかよふは竹の雨

ヒヤシンス花満ちにけり座右の春

めをとむるヒヤシンスあり事務の閑

居残りの灯の閑かなりヒヤシンス

枯芝の明るうなりぬ春の月

春の月水のおもてにとどきけり

笠とりて額のあかるき遍路かな

大き窓陽のはなやかに桜餅

白魚のかぼそきいのちをはりぬる

青柳に雨の降り倦むけしきかな

しろたへの砂を湛へて花ぐもり

かたはらの大きな窓の花ぐもり

春陰や灯影を受けてタイピスト

春寒や耳の見えざる髪に結ふ

温む水山風の波こまごまと

暮れそめてにはかに暮れぬ梅林

遠き灯のかがやきそめぬ梅林

春の宵灯ともれば灯にひびく水

春の夜や時計の音と古畳