和歌と俳句

梅 白梅

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

一葉
おなじくは朧月夜のかげながらそへてを折らんそのゝ梅がえ

一葉
梅の花さかぬ垣根もなかりけりみちおもしろき春の此頃

梅さくや藁屋四五軒犬の聲 子規

古町より外側に古し梅の花 子規

浪花津は海もうけたり梅の花 子規

白河や石きる家の梅の花 碧梧桐

名所に住むや梅さく只の家 子規

鎌倉は屋敷のあとの野梅哉 子規

大弓やひらりひらりと梅の花 漱石

古寺や葎の中の梅の花 子規

大原や黒木の中の梅の花 子規

梅の花柴門深く鎖しけり 子規

不立文字白梅一木咲きにけり 漱石

礎や畑の中の梅の花 虚子

太秦や木佛はげて梅の花 虚子

梅さくや礎のこる十二坊 虚子

王城を鎮守の寺の梅遅し 虚子

折れ曲がり折れ曲がり梅の根岸かな 虚子

呉竹の垣の破目や梅の花 漱石

白梅に千鳥啼くなり浜の寺 漱石

梅咲て奈良の朝こそ恋しけれ 漱石

月落ちて仏灯青し梅の花 漱石

山伏の並ぶ関所や梅の花 漱石

山路来て梅にすくまる馬上哉 漱石

普化寺に犬逃げ込むや梅の花 漱石

手習いや天地玄黄梅の花 漱石

散る梅の掃かれずにある窪みかな 虚子

いの字よりはの字むつかし梅の花 漱石

仏かく宅磨が家や梅の花 漱石

梅林や轟然として夕列車 虚子

梅三株漁村を守る社かな 虚子

仏画く殿司の窓や梅の花 漱石

たのもしき梅の足利文庫かな 漱石

碧玉の茶碗に梅の落花かな 漱石

瑠璃色の空を控へて岡の梅 漱石

上り汽車箱根を出て梅白し 漱石

藪の梅危く咲きぬ二三輪 漱石

子規
椽側に置きし小瓶に花売がいけてくれたるまばら白梅

子規
草の戸にまつる阿弥陀の御佛に薄紅の梅奉る

子規
鎌倉にわが来て見れば宮も寺も賤の藁屋も梅咲きにけり

梅折つてかつ散る花や眉の上 碧梧桐

鉄幹
尼君の山のころものねずみ色にさてもたふとししら梅の花

晶子
明日を思ひ 明日の今おもひ 宿の戸に 倚る子やよわき 梅暮れそめぬ

晶子
梅にしのぶ頭巾なさけの水浅黄浪速は闇の宵の曾根崎

晶子
京の山を東へ歌の君やりて身はしら梅にたそがれの人

左千夫
蒼空を御笠とけせる御仏のみ前の庭に梅の花さく

晶子
闇の夜の御肩に袖にちるや梅路ぬかるみて狭き曾根崎

梅林に行く上下のわたしかな 虚子

小僧皆士の子や梅の寺 虚子

野を行くや離落離落の梅を見て 虚子

憲吉
山くぼの畑のなかに茅家をかくむ白梅日は暮れむとす

左千夫
しばしのま生くるもがきを免れ出でて梅のはるべに息づく我れは

左千夫
神業と清くたふとき梅の花に親むあひだ生けりとおもほゆ

左千夫
梅の花さやかに白く空蒼くつちはしめりて園しづかなり

梨棚を結ふ里や塚の梅白し 碧梧桐

道は鹿垣の上を行く真盛りの梅に 碧梧桐

藪中の木を積む墓所や梅白し 蛇笏

梅が香や広前にゐて鶏白し 鬼城