和歌と俳句

夏目漱石

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濡燕御休みあつて然るべし

雉子の声大竹原を鳴り渡る

むくむくと砂の中より春の水

白き砂吹ては沈む春の水

金屏を幾所かきさく猫の恋

春に入つて近頃青し鉄行燈

朧の夜五右衛門風呂にうなる客

飯食ふてねむがる男畠打つ

章魚眠る春潮落ちて岩の間

山伏の並ぶ関所や梅の花

梅ちるや月夜に廻る水車

酒醒て梅白き夜の冴返る

蟹に負けて飯蛸の足五本なり

梓弓岩を砕けば春の水

山路来て梅にすくまる馬上哉

青石を取り巻く庭のかな

犬去つてむつくと起る蒲公英

大和路や紀の路へつづく菫草

川幅の五尺に足らで菫かな

三日雨四日梅咲く日誌かな

生海苔のここは品川東海寺

菜の花や門前の小僧経を読む

菜の花を通り抜ければ城下かな

筵帆の真上に鳴くや揚雲雀

風船にとまりて見たる雲雀