和歌と俳句

夏目漱石

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や隣の娘何故のぞく

行く春を鉄牛ひとり堅いぞや

春の雨鶯も来よ夜着の中

春の雨晴れんとしては烟る哉

妹が文候二十続きけり

行春や候二十続きけり

婆様の御寺へ一人かな

雛に似た夫婦もあらん初櫻

裏返す縞のずぼんや春暮るる

普蛇落や憐み給へ花の旅

土筆人なき舟の流れけり

白魚に己れ恥ぢずや川蒸気

白魚や美しき子の触れて見る

其夜又なりけり須磨の巻

鶯の大木に来て初音かな

殿も語らせ給へ宵の雨

陽炎の落ちつきかねて草の上

馬の息山吹散つて馬士も無し

春の雨あるは順礼古手買

尼寺や彼岸桜は散りやすき

詩神とは朧夜に出る化ものか

暁の夢かとぞ思ふかな

干網に立つ陽炎の腥き

東風や吹く待つとし聞かば今帰り来ん