和歌と俳句

桃の花

桃さくや湖水のへりの十箇村 碧梧桐

山里や薪割る庭の桃の花 虚子

故郷はいとこの多し桃の花 子規

桃さいてものぞゆかしききなこ飯 虚子

白桃や瑪瑙の梭で織る錦 漱石

瀬戸を擁く陸と島との桃二本 虚子

部屋に沿うて船浮めけり桃の花 虚子

子規
中垣の境の桃は散りにけり隣の娘きのふとつぎぬ

旅にして昼餉の酒や桃の花 碧梧桐

室町や緋桃咲いたる古き家 碧梧桐


庭の隅に蒔きたる桃の芽をふきて三とせになりて乏しく咲きぬ

晶子
山ごもり かくてあれなの みをしへよ 紅つくるころ 桃の花さかむ

晶子
歌に声の うつくしかりし 旅人の 行手の村の 桃しろかれな

晶子
大御油 ひひなの殿に まゐらする わが前髮に 桃の花ちる

晶子
春日いでて北薬師寺の杖の辻あゆみおくれて桃をねたみし

利玄
見透しの田舎料理屋昼しづか桃さく庭に番傘を干す


あまさかる鄙少女等が着る衣のうすいろ木綿と桃咲きにけり

憲吉
女竹垣の桃の根かたを揺ぶりて犬いでし後を花散りやまず

桃咲いて厩も見えぬ門の内 鬼城