和歌と俳句

長塚 節

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の上に雀とまりて枝ゆれて花はらはらと石にこぼる ゝ

川口のゆるき流れにかけわたす橋長うして海見えわたる

山川の早き流れにそば立てる大岩かけて二橋わたす

もろこしの高穗ゆるがし畑をすぎ庭の木草に風ふきわたる

西ふくや風寒ければ網ほせる汀の葦に氷むすびぬ

いかならむ年の日にかも毛の國の民の嘆きの止む時あらむ

秋の日し見まくよけむと筑波嶺の岩本小菅引き攀ぢて來ぬ

あまさかる鄙少女等が着る衣のうすいろ木綿と咲きにけり

筑波嶺ゆ振放見れば水の狭沼水の廣沼棚引く

御鏡の息吹のはしに曇るなす國つ廣湖霞みたる見ゆ

筑波嶺の巌根踏みさくみ國見すと霞棚引き隔てつるかも

春霞い立ち渡らひ吾妻のやうまし國原見れど見えぬかも

筑波嶺の的面背面に見つれども霞棚引き國見しかねつ

春霞立ちかも渡る佐保姫の練の綾絹引き干せるかも

佐保姫の練綾絹のあやしかも國土ひたに覆へる見れば

うす絹と霞立ち覆ひおぼろにも國の眞秀ろの隱らく惜しも

地祇み合ひしせさす春とかも練絹覆ひ人に見えずけむ

思ほゆることの如くは練絹の霞の衣裁たまくし思ほゆ

利根川を打ち越え來れば鳥網張る湖北村に鶯鳴く

伊丹庭の湖網引き船漕ぐ葦の邊の和の春風未だ寒みか

葛飾の梅咲く春を見に行かむたどきも知らず一人こもり居

さ蕨の萌え出づる春に二たびもい行かむ山の筑波しうるはし

さ蕨の人來人來とさし招く春にし逢はゞたぬしけまくも

雪降りて寒くはあれど梅の花散らまく惜しみ出で ゝ來にけり

岸のべの穗立柳は茂れどもありける家を見ぬがともしさ

竹箒手にとり持ちて散り松葉あさなあさなに掃くがす ゞしさ

とのぐもり天の日も見ず吾待ちしこよひの月夜照らずかもあらむ

押し照れる月夜さやけみ鳥網張る秋田の面に立ちわたる

秋の田の穗の上霧合ヘりしかすがに月夜さやけみ鳴きわたる