和歌と俳句

長塚 節

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夕されば鴫伏す田居に鳥網張り吾待つ月夜風吹くなゆめ

秋の田に鳥網張り待ちこのよひの清き月夜にとりかへる

むらどりの塒竹むら下照りてにほふ柿の木散りにけるかも

うぐひすのあかとき告げて來鳴きけむ川門の柳いまぞ散りしく

秋の田に少女子据ゑて刈るなべに櫨とぬるでと色付きにけり

秋雨に濡らさく惜しみ柿の木に來居て鳴くかも小笠かし鳥

苧だまきを栗のたれはな刺むすび日はへぬれども止まぬ雨かも

久方の雨やまなくに秋立つとみそ萩の花さきにけるかも

烏賊釣に夜船漕ぐちふ安房の海はいまだ見ねども目にしみえくも

秋風は吹きもわたれかゆらゆらに糸瓜の袋たれそめにけり

青袋へちまたれたりしかすがにそのあを袋つぎ目しらずも

夏引の手引の糸をくりた ゝね袋にこめてたれし糸瓜か

秋風はいまか吹くらし小林に刈らでの芒穗にいでそめつ

竪長の横狹の湖ゆ見出せばおほに棚引き天の川見ゆ

千葉の野を越えてしくれば蜀黍の高穗の上に海あらはれぬ

もろこしの穗の上に見ゆる千葉の海こぎ出し船はあさりすらしも

さゝぐべき のこゝだも掻きあつめ吾はせしかど人ぞいまさぬ

なにせむに今はひりはむ秋風に枝のみか栗ひたに落つれど

うつそみにありける時にとりきけむ菅の小蓑は久しくありけり

秋風のいゆりなびかす蜀黍の止まず悲しも思ひしもヘば

もろこしの穗ぬれ吹き越す秋風の淋しき野邊にまたかヘり見む

秋風のわたる黍野を衣手のかヘりし來れば淋しくもあるか

筑波嶺の茅生のかや原さらさらにこゝには散らず降れる雪かも

筑波嶺に降りける雪は白駒の額毛に似たり消えずもあらぬか

品川のいり江をわたる春雨に海苔干す垣に梅のちる見ゆ