和歌と俳句

桜貝

西行
花と見えて風に折られて散る波の桜貝をば寄するなりけり

西行
風吹けば花咲く波のをるたびに櫻貝よるみしまえの浦

定家
伊勢の海たまよる浪に桜貝かひあるうらの春の色哉

晶子
さくら貝 遠つ島辺の 花ひとつ 得つと夕の 磯ゆく思

晶子
磯草に まどろむ君の 夢が生む さくら貝こそ ひろひきにけれ

人影や巌に吸ひつく桜貝 石鼎

二三枚重ねて薄し櫻貝 たかし

春寒や貝の中なる桜貝 たかし

ひく波の跡うつくしや桜貝 たかし

拾ひあげまだぬれてゐる桜貝 立子

身の上の相似て親し桜貝 久女

桜貝波打ち際は程遠し 淡路女

桜貝波にものいひ拾ひ居る 虚子

浜の砂まだ冷たけれ桜貝 汀女

離りきて松美しや櫻貝 汀女

紙の上に欠けざるはなき桜貝 たかし

眼あてて海が透くなり桜貝 たかし

櫻貝軒端の砂にうちまじり 青畝

桜貝波打際の小高くて 立子

風に見え疾風に虚し桜貝 青畝

おのおのにひとりの渚櫻貝 汀女