紙の上に欠けざるはなき桜貝
眼あてて海が透くなり桜貝
小波の干潟の上を乳母車
棚藤の上なる山に懸り藤
高うして藤波池に映り得ず
草深く木深き寺の藤を見し
さみどりの瓜苗運ぶ舟も見し
裸足の娘げんげの畦を音もなく
岩藤ののり出し咲ける淵くらし
椅子にある我に芝火のたはむれ来
足もとに来る芝火を踏み越えぬ
走り寄り芝火もつるる梅がした
水浅し椿とどまり落花ゆく
紅梅の月の絹暈著る夜かな
枯菊もそこはかとあり下萌ゆる
下萌の滑川辺に門竝べ
玉と呼び絹と称ふ島波うらら
永き日やお城にかかる雲の帯
霞む日の天守閣上の人となんぬ
霞む日や町音城を包みたる
春日落つ山の彼方は伊予とかや
紅梅の濡れそぼつのみ阿波の雪
春浅く過ぐ高野口吉野口