ゆく水のたえずにごらず山葵生ふ
山葵田の水のさらさら浅き春
死は去りぬ一たび去りぬ青き踏む
再生の双脚ほそく青き踏む
四十五の大病の後青き踏む
病衰の脚震へつつ青き踏む
青き踏む再起の命余念なく
ゆらぎ生ふ藻の隙ありて鮠を釣る
春霜や袋かむれる葱坊主
櫻散りさくら草また卓にちる
花ちるや病後の眼力なく
散らばりし筆紙の中の桜餅
暮遅くとざす御苑の門幾つ
夙く起きて花の露降る朝歩き
花まぶし老斑の顔見交して
弟も妹も四十路の起居春夜更く
春眠の深くはなりぬ黄泉現つ
鳥雲に身は老眼の読書生
春惜しし命減らして煙草のむ
老眼や山吹の黄に黄なる蘂
八重ざくら八重やまぶきに黄泉の杖
二つ出て二つ炬燵に春の猫