花の上に月星遠し谷の坊
一片の落花の行方藪青し
空暗く水暗くして濃山吹
藤棚を低くぞ架けぬ草の上
行春や草山裾の藤濃ゆく
叉一つ病身に添ふ春寒し
萌え草をまだ枯草の包む頃
空いよよ蒼く春の日いよよ濃し
桃の岡重なる里の見ゆるかな
何処までも一本道や桃の中
春水の浮き上り見ゆ木の間かな
その日よりなほ花冷のつづきをり
花辛夷人なつかしく咲きにけり
木蓮の花間を落ちて来たる雨
海棠に法鼓とどろく何かある
海棠にうつろふ花に開宗会
松にのぼり池にひたりて咲ける 藤
春光の大竹藪へ庇かな
囀の草屋の内の観世音
走りゆく芝火の彼方枝垂梅
ためらひて梅の下ゆく芝火あり
藪の戸の朧濃くなるばかりかな
春水の大鏡ある木の間かな
貝寄風の風に色あり光あり
沈丁の香を吐きつくし在りしかな