恋猫やからくれなゐの紐をひき
前山や初音する時はろかなり
空蒼し放たざらめや吾が雲雀
初蝶に見し束の間のかなしさよ
ころがりて又ころがりて田螺かな
一つづつ田螺の影の延びてあり
沸沸と田螺の國の静まらず
二三枚重ねて薄し櫻貝
酒庫の紋それぞれや梅の村
流れ来し椿に添ひて歩みけり
いま一つ椿落ちなば立去らん
また通る彼の女房や藪椿
落椿砕け流るる大雨かな
花人の皆出し園を閉しけり
流れゆく椿を風の押しとどむ
あまたたび雪にいたみし椿咲く
椿落ちて水にひろごる花粉かな
風ふけば流るる椿まはるなり
目白来てゆする椿の玉雫
雪解や現れ並ぶ落椿
大空に莟を張りし辛夷かな
虚子庵に至り坐りぬ花疲
吹雪くる花に諸手をさし伸べぬ
一筋の落花の風の長かりし
卒然と風湧き出でし柳かな