夕煙籠めたる谷戸や梅二月
藪の穂の春光こぼれ交しつつ
春光や若布と乾く櫻蝦
春泥に映りてくるや町娘
春泥に映り歪める女かな
春潮の彼処に怒り此処に笑む
春潮に棹し出て櫓を取りぬ
春昼や洗ひ洗ひて白子乾
春昼の漁具森閑と小屋の中
世に交り立たなんとして朝寝かな
愁あり歩き慰む蝶の昼
連翹の花に葉が出てまぎれあり
松原に家あり四方の揚雲雀
もの皆の縁かがやきて春日落つ
春月の病めるが如く黄なるかな
一本の桜大樹を庭の心
春寒く伐り乱しあり岨の杉
犬が渡り椿がくぐり橋の昼
籠り跳ぶ小鳥あるらし大椿
立仕事坐仕事や浜遅日
夕月の既に朧や藪の空
囀るや妹背ながらの朝寝宿
吊革に並べる腕や花疲
雲雀みな落ちて声なき時ありぬ
もの淡し葱の坊主に蝶とまる
行春や暗きもの行く海の面