和歌と俳句

松本たかし

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夕煙籠めたる谷戸や梅二月

藪の穂の春光こぼれ交しつつ

春光や若布と乾く櫻蝦

春泥に映りてくるや町娘

春泥に映り歪める女かな

春潮の彼処に怒り此処に笑む

春潮に棹し出て櫓を取りぬ

春昼や洗ひ洗ひて白子乾

春昼の漁具森閑と小屋の中

世に交り立たなんとして朝寝かな

愁あり歩き慰むの昼

連翹の花に葉が出てまぎれあり

松原に家あり四方の揚雲雀

もの皆の縁かがやきて春日落つ

春月の病めるが如く黄なるかな

一本の大樹を庭の心

春寒く伐り乱しあり岨の杉

犬が渡り椿がくぐり橋の昼

籠り跳ぶ小鳥あるらし大椿

立仕事坐仕事や浜遅日

夕月の既にや藪の空

囀るや妹背ながらの朝寝宿

吊革に並べる腕や花疲

雲雀みな落ちて声なき時ありぬ

もの淡し葱の坊主に蝶とまる

行春や暗きもの行く海の面