和歌と俳句

通草の花

茂吉
くろく散る 通草の花の かなしさを 稚くてこそ おもひそめしか

茂吉
おもひ出も 遠き通草の 悲し花 きみに知らえず 散りか過ぎなむ

茂吉
ほのかなる 通草の花の 散るやまに 啼く山鳩の こゑの寂しさ

茂吉
寂しさに 堪へて分け入る 山かげに 黒々と通草の 花ちりにけり

白秋
吾が門は 通草咲きつぎ 質素なり 日にけに透る 童らがこゑ

白秋
棚にして 見のすがしきは 雨あとの 通草が綴る 蔓の葉の萌

白秋
ぬか雨の ちららにむすぶ 雌雄の はな通草はすがし 蜆いろの花

白秋
蜆花 通草ちりきし おびただし 時に搖りこぼす 棚の上の雨

白秋
雨落に 通草の花は ちり泛きて 中流れをり 清きむらさき


細きみち人に遇はざり咲く通草