細きみち人に遇はざり咲く通草
芽のひかり山毛欅がまぶしや相模越
古る軒にあけび花あり相模越
炭乏しそのほか乏し寒明くる
子の受験言ふのみの友ゐてかなし
石楠花も咲きゐる庭のはこべ草
見るほどの春暁の雪ひとり見る
受験期やことし受験の無くてあれど
木瓜は蕾こぞりてあれば鋭さよ
鳴くと言へば蟇また鳴けり春の夕
たてまつる八十路の母に蓬もち
冴え返るその日の土筆かなしけれ
土筆添へて夕餉の箸のはじまりぬ
池しづか蟇のたまごもしづまれる
子ら揃ふ三月尽の夜の紅茶
ひるがへることなく一羽初つばめ
つばくらやまだ冷ゆる日のある今年
通夜の座のうしろにをれば遠蛙
遠蛙哀しの友も起ち居して
春愁の机古りたる桑づくゑ