及川 貞
犬放つうしろ姿や野かぎろひ
旅ごろも春の手ぶくろあたらしく
青麦の野の風かよふ花圃つくり
梅咲きて野川沿ひゆく家路なる
早春の門しこし濡れあさの雨
暮てゆく畦火の色をもどり見む
蝌蚪池に生れて庭掃くこともなし
せんたくの白きもの干し花降り来
馬酔木咲く下みち通ふ馬もゐて
犬の子をさしのぞく灯に落花あり
別れ霜白雨の墓の細き道
沈丁は新しき墓に多き花
しひ茸を干す軒下の春の水
点心や山房の春松ばかり
早春の新月得たる軒あはれ
早春の暮れ色の空松はよし
蘭の香や暖炉焚かざるきのふ今日
受験終へぬ四月となりてゐし朝餉
蛙鳴き蝕はじまりし月の門
この山の春を惜みぬ細き道