和歌と俳句

高浜虚子

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踏めばゆらぐ一枚石の日永かな

瀬戸を擁く陸と島との二本

部屋に沿うて船浮めけり桃の花

木瓜咲くや糟糠の妻病んで薬を煮る

名所かな春の曙笠を著て

面白い話の中へ春の月

春月の出たとも知らず東山

怒濤岩を噛む我を神かと朧の夜

海に入りて生れかはらう朧月

河童身を投げて沈みもやらず朧月

女等のぬれて戻りぬ花の雨

千木見えてに埋もる社かな

山門も伽藍も花の雲の上

花に高尾八文字ふめ伽羅の下駄

白丁や花に草鞋の新らしき

弦音や花に鯛買ふ裏の門

園の戸に花見車の忍びよる

音たてて春の潮の流れけり

菜の花にねり塀長き御寺かな

菜の花や化されてゐる女の子

大根の花紫野大徳寺

石楠花に碁の音響く山深し

行春を尼になるとの便りあり