和歌と俳句

春の月

須磨を出て赤石は見えず春の月 子規

一葉
咲く花に 人はくるひて 見かへらぬ 山した庵の 春のよの月

一葉
小しば垣 わが庵ながら おもしろし 花散りかかる はるのよの月

一葉
何事の おもひありやと 問ふほどの 友得まほしき 春のよの月

子規
車過ぎて 伽羅の匂ぞ 残りける 都大路の 春の夜の月

春の月枯木の中を上りけり 子規

春の月簾の外にかかりけり 子規

配所には干網多し春の月 漱石

捲上げし御簾斜也春の月 漱石

面白い話の中へ春の月 虚子

春月の出たとも知らず東山 虚子

曲すみし笛の余音や春の月 碧梧桐

春月や上加茂川の橋一つ 碧梧桐

春月に網うち下る小舟かな 虚子

晶子
十余人 椽にならびぬ 春の月 八阪の塔の 廂離ると

晶子
春の月 ときは木かこむ 山門と さくらのつつむ 御塔のなかに

晶子
春の月 をとうとふたり 笛ふいて 上ゆく岡を 母とながめぬ

高浪の上に描くや春の月 虚子

晶子
さがみのや 伊豆につづける 海道の しら輪の上の 春の夜の月

藪の中の家の花見ゆ春の月 碧梧桐

牧水
蹌踉と 街をあゆめば 大ぞらの 闇のそこひに 春の月出づ

晶子
くれなゐの 海髪の房 するすると 指をすべりぬ 春の夜の月

耕平
春の夜の 月はすがしく 照りにけり 木の芽ひらきて やや影に立つ