和歌と俳句

與謝野晶子

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美くしく黄金を塗れる塔に居て十とせさめざる夢の人われ

六枚の障子の破目あちこちに人の覗ける山ざくら花

菊の助きくの模様のふり袖の肩脱がぬまに幕となれかし

水無月の青き空よりこぼれたる日の種に咲く日まはりの花

梢より音して落つる朴の花白く夜明くるこ ゝちこそすれ

過去未来云ひもて行けば虚無ながら念をし掛くれこの君のため

くれなゐの海髪の房するすると指をすべりぬ春の夜の月

初夏の楓の枝に藤ちれば花笠に似てなまめかしけれ

秋の朝黍の木などの白き根を出すここちに寒き爪先

ふるさとの幼なじみを思ひ出し泣くもよかろと来る来るとんぼ

やはらかに心の濡るる三月の雪解の日より紫を着る

西大寺など云ふ寺の大門に今立つ如しよき入日かな

こゝちよく橄欖色の透きとほり身に流れ入るすゞらんの花

夕立のしぶき吹きこむ歌舞伎座の廊下に語る杵屋のおろく

千葉の海干潟の砂につばくらの影して遠き山のはれゆく

岩のくぼ浜豌豆の花咲きぬ久方の雲おちちれるごと

芍薬の花より艶にあかばみぬ雨のはれ行く刀根の川口

刀根の川さ ゝ濁りして初夏の日のくれ行けば船の笛鳴る

真菰伏すかぜにまじりてはしきやし香取の宮の大神はある

たはぶれに青き真菰の葉を組める指ちかく来る川あきつかな

かきつばた香取の神の津の宮の宿屋に上る板の仮橋

青き蘆人をおほひて伸びたりと蚊帳を眺むる明方のわれ

椿踏む思へるところある如く大き音たておつる憎さに

初秋は王の画廊に立つごとし木にも花にも金粉を塗る

大いなる欝金のひと葉日に透きて散る時われも舞はまほしけれ