和歌と俳句

與謝野晶子

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夜もなほ籠のあたりに灯をおけば金糸雀は啼く旅人のごと

七尺の簾を透きて白百合のそよぐ夕にわたるいなづま

ものの蔓あかざまじりに枯残る築土の内のたんぽぽの花

恋人ともの云ふ如く立ちながら手ずさびに引く青柳の糸

店さきに住吉をどり傘の柄を叩く音より夏のひろがる

知恩院の高き屋根よりわが髪に皐月のしづく青やかにちる

街々はうす黄の菊のさびしさに早くも似たり十月の末

紙を切る細き刃物も何となくすさまじきかな夜を一人居て

雨白く土をあらへば瀬戸かけの藍の模様のひかる夕ぐれ

杏の実うすく赤める木の下に砂を流せるあけがたの雨

明星も白き小石にしかめやと手のひらに置きかたらふ夕

うす赤きすゐいとびいの花の呼吸湯気より熱きここちするかな

高き屋に朝々のぼり遠かたの木蓮の花見る日となりぬ

秋の来てとうしみとんぼ物思ふわが身のごとく細り行くかな

かば色のつやよく長き頸のべて麒麟の食めるあかしあの花

小き手を横に目にあて泣く時はわが児なれども清しうつくし

筆とれば涙おちきぬ指痩せてふるるに似たり枯木と枯木

ねがはくば君かへるまで石としてわれ眠らしめメヅザの神よ

逢見ねば黄泉ともおもふ遠方へたからの君をなどやりにけん

わが前に灰いろの幕ひかれたり除かるる日のありやあらずや

われながらあなづらはしく思ふかな巴里の大路を君一人行く

海こえし旅人の文時をりになげきの家の窓あけに来る

わが机死のまぢかにもある如くよれば夜も日も涙ながれぬ

男をば目はなつまじきものとする卑しきことは思ほへなくに