和歌と俳句

與謝野晶子

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冬の手に裂かれて落つる金の箔ひと葉ちるなり二葉ちるなり

東大寺二王の門を静かなるうす墨色にぬらす秋雨

生きながら身の棄てらるる心地しぬ岩代山の雪よけの底

磐梯の山をとどろと鳴し来てみづうみに入る白き横雨

岩こえて三筋に裂くる白き瀑とどろと鳴りて山に霧ふる

初秋の湯上の山の朝風に水を過りて雲のふかるる

わが背子と夏の旅路にやつれ来て今日みそぎする岩代の山

美くしや会津の山の湯上川ちさき板橋ちさき舞姫

湯上川たかき欄を背にしてつづみの紐をむすぶ舞姫

川底のろくしやう色の板岩に白き裳引きて躍る水かな

ましろなるわが身をめぐり湯の湧けばいかづち伏せてあるここちする

山の雨ころもを濡し葛の花人にまとひぬあかつきの谷

飯坂のはりがね橋にしづくしる吾妻の山の水いろの風

吾妻山うすく煙りて水色す摺上川の白きあなたに

わが浸る寒水石の湯槽にも月のさし入る飯阪の里

元朝やわか水つかふ戸に近き柳の花に淡雪ぞふる

麦の穗の黄ばめる上にものの葉の裏見るごとき海の色かな

水無月の夜にして早も啼く虫のやさしき声のうすみどり色

藤の花わが手にひけばこぼれたりたよりなき身の二人ある如

棕梠の花魚の卵の如きをばうす黄にちらし五月雨ぞふる

うき草の中より魚のいづるごと夏木立をば上りくる月

烏瓜たよりなげなる青き実の一つかかるもさびしきものを

せはしげに金のとんぼのとびかへる空ひややかに日のくれて行く

黒馬のながく伸せる首すぢのつやつやとして萱の露ちる

大和川砂にわたせる板橋を遠くおもへと月見草咲く