和歌と俳句

夏目漱石

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捲上げし御簾斜也春の月

舟軽し水皺よつて蘆の角

仰向て深編笠の花見

奈古寺や七重山吹八重桜

春の江の開いて遠し寺の塔

柳垂れて江は南に流れけり

川向ひ咲きけり今戸焼

雨に濡れて鶯なかぬ処なし

手習いや天地玄黄梅の花

霞むのは高い松なり国境

奈良七重菜の花つづき五形咲く

端然と恋をして居る かな

待つ宵の夢ともならず梨の花

春風や吉田通れば二階から

風が吹く幕の御紋は下り藤

登りたる凌雲郭の かな

山城や乾にあたり春の水

模糊として竹動きけり春の山

限りなき春の風なり馬の上

乙鳥や赤い暖簾の松坂屋

古ぼけた江戸錦絵や春の雨

蹴爪づく富士の裾野や木瓜の花

春の海に橋を懸けたり五大堂

足弱を馬に乗せたり山桜

君帰らず何処の花を見にいたか