和歌と俳句

燕 乙鳥

壁ぬりの小手先すかすつばめ哉 子規

長町のかどや燕の十文字 子規

大佛を取て返すや燕 子規

燕や二つにわれし尾のひねり 子規

風に乗つて軽くのし行く燕かな 漱石

燕や酒蔵つづく灘伊丹 子規

戦ひのあとに少き燕哉 子規

思ふ事只一筋に乙鳥かな 漱石

燕のうしろも向かぬ別れ哉 子規

濡燕御休みあつて然るべし 漱石

乙鳥や赤い暖簾の松坂屋 漱石

藍壺に泥落したる燕哉 子規

門並に柳植ゑたる家つづき春雨細く燕飛ぶなり 子規

温泉の村や家ごとに巣くふ燕 虚子

去年の巣に燕を待つ酒屋かな 虚子

九条まで町の木立や飛ぶ燕 碧梧桐

燕や晒し場のものに昨日今日 蛇笏

晶子
さくら人 髱ならべたる うしろをば 走りて過ぎぬ 燕とわれと

晶子
尻ふりて 出できたらずや つばくらめ 老いよろぼひし 塔のかげより

晶子
つばくらめ 小雨にぬれぬ わが膝は ただいささかの 涙にぬれぬ

牧水
ちりやすき はなのにほひに ふとふれて なりぬかなしき 空のつばめに

三名城の一に人馬を飛ぶ燕 碧梧桐

瀬全き水となり伊吹落つ燕 碧梧桐

茂吉
のど赤き 玄鳥ふたつ 屋梁にゐて 足乳根の母は 死にたまふなり

憲吉
雨のいろに冴えひかりたる青葉路をつばめの腹のひるがへり見ゆ

憲吉
青葉路のあめの湿りの砂のうへ燕とわれとふみつつぞ行く

憲吉
つばくらのちひさく啼けば葉にぬれて日かげのうすく洩れこぼれけり