いと高き 檜に風の 擦るる音 きく一つ家の 寝台を借りぬ
虫巣くひ 壁もはしらも 食みさりぬ わが住む家を わが心から
石の階 一つ一つに 沓すりて 上がれと云ふや 羽ある人に
いつとなく 超ゆべからざる 境こそ 逢ふひとびとは 苦しきものぞ
昔の子 なほかの山に 住むと云ふ 見れば朝夕 けぶりたつかな
美くしき 大阪人と ただ二人 乗りたる汽車の 二駅のほど
生きむすべ 安きをねがひ らちもなき 男と三とせ そひぶして寝る
わが恋は さむるになれぬ たのめつつ 変るてふこと いまだ知らざり
夜目朝目 よしともわれの 十五よし 二十よしとも めづるやからよ
見えぬもの 来てわれ教ふ 朝夕に 閻浮檀金の 戸のすきまより
日のかげを あなたふとあな 尊とぞ 大木のおとす 涙のしづく
いつの日か 憎しと云ひし わがことば 忘れずに居ぬ たのもし人は
筒いでて 煙ひろこる 恋のなる 怒りの爆づる みなことなれど
飲む酒の なずらひにする 人なしと 笑ふさびしき 男をきらふ
来よと云ひし 林なれども わが歩む 路の無ければ 葛の葉を踏む
一人寝の ものおぢ人は 夜のあられ すぎて後さへ 心の鳴りぬ
見ることを 怠るさがは ちかひつつ 心変るに まさらぬものを
二十三 なほそこばくの 人見ぬは 衣の珠の たらはぬここち
神山の 太しき箸に とりたまふ 明月の夜の たなつものかな
平かに 馬の鞍なす かつらぎの 高間の山に 春のかぜ吹く