月ありぬ 辻にたまりし 夜のかぜに ぬけ毛の舞へる さびしき路に
萩の株 菊の株わけ 吾妹子が おほひし埴の 上に霜ふる
やごとなき 白き光りの 阿古屋珠 紅きひかりの わが恋の君
君とあり 百重しら雲 居るうへの 神秘のことも 思ほゆるかな
風そよぐ 青菅原を 夕されば 馬にまじりて 走る子なりし
牡蠣くだく 人の十人の 並べるは 夢想兵衛の ものがたりめく
すめらぎが 菜摘少女を にほはしと 思ひしごとく 見てのみやまむ
むつかしき 謎をもてこし 憎さより 君と遊ばず なりにけるかな
世ざかりに もの云ひし人 三四人 次ぎてし見れば 心さびしき
世をこめて 小き襯衣を ぬひいでし よろこびなども あはれなるかな
うまごやし これらの低き 草も吹く 秋風なれば 身に染みにけり
昨日わが ねがひしことを 皆わすれ 今日のねがひに そひたまへ神
やはらかに ぬる夜は聞かぬ ほととぎす 昼きて啼かば 餌を飼はましを
あなかしこ 楊貴妃のごと 斬られむと 思ひたちしは 十五の少女
春の花 わがいきほひの 半にも 足らでほこれる 牡丹を切らむ
あはれにも たちまち敗る かく云ふは 一たび君に かちえし少女
白鳥の 裔とおもへる 少女子と 獅子の息子と ねよげにぞ寝る
おのれのみ 異るものと 思ひしを 若き初めの あやまちとして
青き富士 うすきが下に 雲ばかり ある野の朝の 風に吹かるる
さうびちる 君恋ふる人 やまひして ひそかに知りぬ 死なる趣