和歌と俳句

正岡子規

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梨咲くやいくさのあとの崩れ家

故郷はいとこの多し桃の花

もろこしは杏の花の名所かな

荒寺や簀の子の下の春の草

なき人のむくろを隠せ春の草

種芋を種ゑて二日の月細し

苗代の雨緑なり三坪程

菜の花の四角に咲きぬ麦の中

菜の花の中に川あり渡し舟

菜の花の中に三条四条かな

城跡や大根花咲く山の上

山吹の花の雫やよべの雨

落ちかかる石を抱えて藤の花

手向くるや余寒の豆腐初桜

赤飯の湯気あたたかに野の小店

のどかさや千住曲れば野が見ゆる

垂れこめて古人を思ふ春日

怪談に女まじりて春の宵

春の夜の妹が手枕更けにけり

行く春やほうほうとして蓬原

紙あます日記も春のなごり哉

このを鏡見ることもなかりけり

牡丹餅の昼夜を分つ彼岸

の影桃の影壁に重なりぬ

二つ桃一枝や床の上

畑打の王莽が銭掘り出しぬ

春風ににこぼれて赤し歯磨粉

欄間には二十五菩薩春の風

畑見ゆる杉垣低し春の雨

人に貸して我に傘なし春の雨

春雨や日記をしるす船の中

春の山畠となつてしまひけり

内のチヨマが隣のタマを待つ夜かな

や垣をへだてて君と我

のうしろも向かぬ別れ哉

椽端に見送る雁の名残哉

崖急に梅ことごとく斜なり

交番やここにも一人花の酔

花の山鐘楼ばかりぞ残りける

寐て聞けば上野は花のさわぎ哉

ひねくりし一枝活けぬ花椿

名物の蒟蒻黒きつつじかな

弁天をとりまく柳桜かな

連翹に一閑張の机かな

古株の底やもやもや薄の芽

木の末をたわめての下りけり

出て見れば南の山を焼きにけり

雲無心南山の下畑打つ

零落や竹刀を削り接木をす