和歌と俳句

奈良

小野老
あをによし奈良の都は咲く花のにほふがごとく今盛りなり

大伴四綱
藤波の花は盛りになりにけり奈良の都を思ほすや君

旅人
我が盛りまたをちめやもほとほとに奈良の都を見ずなかりなむ

万葉集巻第六・作者未詳
紅に深く染みにし心かも奈良の都に年の経ぬべき

万葉集巻第六・作者未詳
世間を常なきものと今ぞ知る奈良の都のうつろふ見れば

万葉集巻第六・作者未詳
岩つなのまたをちかへりあおによし奈良の都をまたも見むか

家持
あをによし奈良の都は古りぬれどもとほととぎす鳴かずあらなくに

家持
堀江より水脈さかのぼる楫の音の間なくぞ奈良は恋しかりける


古今集 平城天皇 大同天子
ふるさととなりにしならのみやこにも 色はかはらず花はさきけり

金葉集・春小倉百人一首 伊勢大輔
いにしへの奈良の都の八重櫻けふここのへに匂ひぬるかな

俊成
これぞこの奈良のみやこの花盛りこり重なりて匂ふしらくも

定家
あをによし奈良のみやこの玉柳色にもしるく春はきにけり

芭蕉
奈良七重七堂伽藍八重ざくら

芭蕉
灌仏の日に生れあふ鹿の子

鬼貫
しろく候紅葉の外は奈良の町

蕪村
葉櫻や碁氣になりゆく奈良の京

蕪村
秋の燈やゆかしき奈良の道具市

蕪村
春雨やゆるい下駄借す奈良の宿

召波
春の夜や足洗はする奈良泊


子規
奈良の町の昔くさしや朧月

子規
青丹よし奈良の都に着きにけり牡鹿鳴てふ奈良の都に

春の夜や奈良の町家の懸行燈 子規

梅咲て奈良の朝こそ恋しけれ 漱石

奈良の春十二神将剥げ尽せり 漱石

角落ちて首傾けて奈良の鹿 漱石

墨の香や奈良の都の古梅園 漱石

水温む奈良はあせぼの花盛り 石鼎

晶子
こがね矢をそびらになせる神将がむかふ軍か君が行く奈良

晶子
伽藍すぎ宮をとほりて鹿吹きぬ伶人めきし奈良の秋かぜ

白秋
青丹よし奈良の都の藤若葉けふ新たなり我は空行く

牧水
鐘おほき 古りし町かな 折りしもあれ 旅籠に着きし その黄昏に

牧水
旅びとは ふるきみやこの 月の夜の 寺の木の間を 飽かずさまよふ

奈良に来て夕間なかりし火桶かな 石鼎

水温む奈良はあせぼの花盛 石鼎

八一
しかなきてかかるさびしきゆふべともしらでひともすならのまちびと

八一
しかなきてならはさびしとしるひともわがもふごとくしるといはめやも

大仏蕨餅奈良の春にて木皿を重ね 碧梧桐

若宮を詣でさがりてわらび餅 草城

かたはらに鹿の来てゐるわらび餅 草城

火をはこぶ娘のはるかより鹿の雨 蛇笏

暦売る家あり奈良の町はずれ 播水

奈良の雨降りしきりけり子の傘に 草城

古き世のにほひのなかに子の稚なさ 草城

梅雨ちかき奈良を仏の中に寐る 三鬼

青き奈良の仏に辿りつきにけり 三鬼

すずなりに生らして奈良の渋し 青畝

悲しみが立てるよ奈良の雲の峰 誓子

奈良の月山出ての上に来る 誓子

行くにつれ奈良へ退く奈良の 誓子

繕ひの音か塔より枯野ゆく 爽雨

どの鹿となく屯より声寒き 爽雨

はじめての道も青水無月の奈良 爽雨

堂いらかながれ灑ぐに小春われ 爽雨

冬帽や奈良は佛の許へもとへ 爽雨