飯田蛇笏
書初や草の庵の紅唐紙
手毬かがるひとりに障子日影かな
うたたびやつけばもつるる毬の絲
手毬つく唄のなかなるお仙かな
墓松に玉蟲とるや秋近く
庵出る子に松風のほたるかな
月光に燭爽かや灯取蟲
山雲の翔りて咲けるぼたんかな
牡丹しろし人倫をとく眼はなてば
逆友を訪ふ岡晴れぬ青銀杏
瓜畑を展墓の人や湖は秋
江上に月のぼりたる夜霧かな
杣の戸をしめきる霧の去来かな
燕去つて柝もうたざる出水かな
なんばんをくらふ蟲とて人の影
炉ほとりの甕に澄む日や十二月
藪伐れば峰のこだます寒さかな
浦人に袈裟掛け松の小春かな
針売も善光寺みちの小春かな
船よせて漁る岸の冬日かな
湯屋出づるとき傘のみぞれかな
埋火や倚廬月あげて槻の枝