和歌と俳句

飯田蛇笏

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藁つむや冬大峯は雲のなか

大艦をうつ鴎あり冬の海

爐をきつて出るや椿に雲もなし

雪晴れてわが冬帽の蒼さかな

爐によつて連山あかし橇の酔

湯をいでてわれに血めぐる圍爐裡かな

死病得て爪うつくしき火桶かな

ひとり詠むわが詩血かよふ炭火かな

埋火に妻や花月の情鈍し

火を埋めて更けゆく夜のつばさかな

かりくらの月に腹うつ狸かな

枯菊や雨きて鶏の冠動く

月にねむる峯風つよしをとる

落葉ふんで人道念を全うす

ゆづり葉に粥三椀や山の春

春あさし饗宴の灯に果樹の露

髪梳けば琴書のちりや浅き春

立春や厚朴にそそぎて大雨やむ

舟を得て故山に釣るや木の芽時

尼の数珠を犬もくはへし彼岸かな

山寺の扉に雲あそぶ彼岸かな

ゆく春や人魚の眇われをみる

連翹に山風吹けり薪積む

やまびとの大炉ひかへぬ花の月

うきくさにながあめあがる落花かな