和歌と俳句

飯田蛇笏

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歳旦や芭蕉たたへて山籠り

早春や庵出る旅の二人づれ

かへりつく庵や春たつ影法師

山風にながれて遠き雲雀かな

風呂あつくもてなす庵の野梅かな

春さむや翁は魂の雲がくれ

夏旅や俄か鐘きく善光寺

夕雲や二星をまつる山の庵

盆市の一夜をへだつ月の雨

さるほどに泣きこゑしぼる音頭取

ひしめきてただひと時の墓参かな

ささぐるや箸そふ盆供手いつぱい

雲を追ふこのむら雨や送り盆

秋暑したててしづくす藻刈鎌

ゆかた着のたもとつれなき秋暑かな

草籠に秋暑の花の濃紫

秋風や笹にとりつく稲すずめ

秋山やこの道遠き雲と我

月さそふ風とさだむる子規忌

かな

蟲の夜の更けては葛の吹きかへす

ひぐらしの遠のくこゑや山平ら

霧の香に桔梗すがるる山路かな

園生より霧たちのぼる一葉かな

唐がらし熟れにぞ熟れし畠かな

年の瀬や旅人さむき灯をともす

極寒のちりもとどめず巌ふすま

みぞるるや雑炊に身はあたたまる

綿入や気たけき妻の着よそほふ

何もかも文にゆだねぬ冬籠り

山柴におのれとくるう鶲かな

山土の掻けば香にたつ落葉かな

茶畠や花びらとまる畝頭

いく霜の山地日和に咲くかな

聖芭蕉かすみておはす庵の春

野社へお降り霽れや夕まゐり

恋々とをみなの筆や初日記

人の着て魂なごみたる春着かな

織初や磯凪したる籬内

端山路や曇りて聞ゆ機始め

草の戸や白機はじむ十四日

眉剃りて妻の嬉々たる初湯かな

谷雲にそれてながるる破魔矢かな

破魔弓や山びこつくる子のたむろ

汁なくてあきあきくらふ雑煮かな

炉がたりも気のおとろふる三日かな

寒明けの幣の浸りし泉かな

山水のいよいよ清し花曇り

くだかけの鳴きつぐ庵の雪解かな

雨霽れの名残り雲雀や山畠

山藤の風すこし吹くさかりかな

尼寺の卯月八日の白躑躅

春蘭や巌苔からぶけしきにて

いばら野やさかりとみゆる山櫻

池の面にはらりとしたるかな

夕立や水底溯る渓蛙

蚊とんぼの袖にとりつく瀧見かな

苔の香や笠被てむすぶ岩清水

岸にうつ泳ぎの波や大夕焼

すはだかに熟睡したる籐椅子かな

殪つさまに光りもぞするかな

青蜥蜴さます嫉妬のほむらかな

桟や荒瀬をこむる蝉しぐれ

花闌けてつゆふりこぼす牡丹かな

盆過ぎやむしかへす日の俄か客

なきがらや秋風かよふ鼻の穴

ひるを臥て展墓のゆめや秋の風