和歌と俳句

千載集 藤原盛方
岩間より 落ちくる滝の 白糸は むすばで見るも 涼しかりけり

定家
夏か秋か とへどしらたま いはねより はなれておつる たき河の水

有家
夕立の 雲の水脈より 伝ひきて 軒端に落つる 滝の白糸

定家
雪とのみ 落つるしらあわに 夏きえて 秋をもこゆる 滝のいはなみ

続後撰集・夏 後京極摂政前太政大臣良経
山姫の 滝の白糸 くりためて 織るてふ布は 夏衣かも

左千夫
夏草の菖蒲が浦に舟よせて竜頭の滝を見にぞわがこし

左千夫
つがの木のしみたつ岩をいめぐりて二尾におつる滝つ白波

左千夫
滝つぼにおりてみらくと苔青き五百個人岩群を足読みてくだる

左千夫
たきつぼのよどみ藍なす中つせの黒岩の上に立てば涼しも

左千夫
きりふりの滝の岩つぼいや広み水ゆるやかに魚あそぶみゆ


二荒のふもとをゆけば野のきはみ山あひにして瀧かゝるみゆ


二荒の山のつゞきの山もとにたぎつ七たき七つなみおつ


ここにしてまともにかかる白瀧のすずしきよひの那智山よしも

若山牧水
まなかひに奈智の大瀧かかれどもこころうつけてよそごとを思ふ

大滝も小滝も暮れて響かな 草城

岩襞を逸れ水走り風の滝 花蓑

滝の空蔽ふ葉透けて皆楓 花蓑

滝をのぞく脊をはなれゐる命かな 石鼎

下駄のまゝ滝のながれを歩き見し みどり女

滝裏を見せてさやかや祠の灯 泊雲

今一つ奥なる瀧に九十九折 虚子

蚊とんぼの袖にとりつく瀧見かな 蛇笏

岩の間人出て瀧を仰ぎけり 虚子

滝壺を覗いて下りる径はなし 花蓑

観瀑や風に流るる石たたき 蛇笏

くだかれし著莪の葉屑や滝の道 野風呂

車前草の葉の皆ぬれて滝の道 野風呂

合歓の葉のそよぎ止まざり滝頭 野風呂

瀧の上に水現れて落ちにけり 夜半

瀧水のおくるる如く落つるあり 夜半

ことごとく瀧に向へる床几かな 夜半

瀧見人水魔狂ひ落つ影見しか しづの女

滝落ちて群青世界とどろけり 秋櫻子

ゆくほどに水づきそめけり滝の道 草城

滝浴びのひたに唱ふる声来る 草城