和歌と俳句

日野草城

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夏の雨きらりきらりと降りはじむ

百姓の顔をならぶる甘雨かな

筆硯に及べる喜雨のしぶきかな

まつさをな日影の草や油照

雲の峰都市計画にそびえたり

激つ瀬にむかへられけり夏の山

温泉の宿四方の青田の暮るるのみ

朝の閑清水のひびききこえつつ

夕影のしぬびやかなるかな

夕明り水輪のみゆるかな

ゆくほどに水づきそめけりの道

滝浴びのひたに唱ふる声来る

ほんのりと早灯の明る葭戸かな

の折目たしかに着たりけり

はやばやと夏よそほひのタイピスト

砂山に泳がぬ妹の日傘見ゆ

ちらつける遠きひかげや青簾

わが昼寝青き簾の蔭に覚む

夕風の籐椅子二つあるばかり

宵浅し露台へのぼる靴の音

足もとに大阪眠る露台かな

背がつりし一手は高し蚊帳はじめ

寝おくれて妻のかかぐる蚊帳の裾

独り寝の蚊帳の四隅を吊りめぐる