和歌と俳句

日野草城

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ぼうたんを見てそばかすを嘆きけり

ぼうたんの暮るる始終を見て去りぬ

青芝にふたりのお茶のたのしけれ

ひとの香のいみじかりける薄暑かな

はやらかきものはくちびる五月闇

日の烈しさ黒き水着に白き妹

さよならのくちづけながし青簾

鉄骨が厦となりゆく新樹かな

白きもの乾きつらなる新樹かな

パッカードゆらりと停り麦熟るる

短夜の河のにほへりくらがりに

鯖ずしのつめたかりける祭かな

薫風の眉たかぶりてわかものよ

新緑の雨に紅茶のかんばしく

夏霞水たひらかに午後長し

薫る風遠き帷に見ゆるかな

苺啖ふコーヒーミルのめぐる見て

濃き闇に夏の灯の宝塚ホテル

伊達巻の胴のすらりと蚊帳を吊る

青蚊帳をふちどる紅のなまめける

灯を消して蚊帳のみどりは失せにけり

水差のほのかな光蚊帳の闇

蛍来て妹背の蚊帳に灯しけり