和歌と俳句

日野草城

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夕映えのしりぞく卓布眞白にぞ

薫風や晩餐の足芝を踏み

みづみづしセロリを噛めば夏匂ふ

七月の冷たきスウプ澄み透り

水差にかちんかちんと夏氷

伊勢ゑびにしろがねの刃のすずしさよ

マカロニが舌を焦しぬ風涼し

うす茜ワインゼリーに溶くるがに

青メロン運ばるるより香に立ちぬ

珈琲や夏のゆふぐれながかりき

冷房の絨毯の碧深かりき

冷房やをとめのわらふさへすずし

ナプキンをひろげてたのし薔薇の朝

冷蔵の露をむすべり青林檎

青東風に紅茶のけむりさらはるる

泰山木のたくましき花かをるかな

滴りのはげしく幽きところかな

風にのるをなごのこゑやすずみぶね

夏の灯の動くことなき田舎かな

少年の膝いとけなき登山かな

夏氷つる家のかどに累々と

手鏡に夕月がふと凉しけれ

やははだのはしばしみゆる夏衣