和歌と俳句

日野草城

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日盛の影を落し子と二人

子のグリコ一つもらうて炎天下

炎天下子のやはらかき手を携へ

灼けてゐる「こどもの汽車」に子と揺られ

片蔭に一折の鮓を子と食うべ

子と萎ゆるかんかん照りの遊園に

渇きつつ熊の昼寝を子と見てゐる

疲れたる子の小さき手を掌に嚢み

喫泉をむさぼりて子の鼻濡れぬ

遊びたき灼砂をふりかへり子は

新鮮な夕刊を買ふ風の中

戦死傷の芳名けふは二段に余る

歓送の旗の嵐に赤襷

赤襷道をたづぬる国訛

鬢髪に白きもの見ゆ赤襷

鋼鉄の雨は斜めに横に降る

湯あがりやアダムのごとくゐて涼し

服軽くなりて五月の陽に歩む

夜の五月匙落ちし音灯にひびく

炎天の雲み眼ほそめ古娘

夕空に雲のましろきビールかな