青竹の膚にひびけるは初蝉なる
棕梠咲けりじわりじわりと蝉なける
薄暑なり葱坊主見てせうべんす
うすいろのつつじ三輪祇王寺に
紅つつじあやに萎えそめ滝ひびく
白日の夢縷々と河鹿鳴き冴ゆる
梅雨の水ながれながれてゆふべとなる
葉を襲ねかさねて暮るる若楓
尋めて来し河鹿ぞなける水の綾
夕河鹿瀬のつぶやきに音を浮かせ
歓送のどよめき夏日暮れてもきこゆ
鬱然と征く暁の大梅雨を
梅雨太し軍帽に肩に軍刀に
天よりす豪雨地表を覆ひたり
地を覆ふ豪雨の流れ靴に乗る
ただれたる胃壁に夜もひびく梅雨
炎天に現れて聳ゆる紫金山
熱風に麦なびく麦の青げしき
太陽光垂直に射おろして灼く
人血のあふれては乾く千里の麦
戦火去り壁の群落麦の海に
爆撃機爆弾孕めり重く飛ぶ
破声はるかなり麦は夕映ゆる
麦暮れぬ流弾笛をふいて飛ぶ