和歌と俳句

夏衣

貫之
夏衣 薄きかひなし 秋まてば 木の下風も やまず吹かなむ

好忠
夏衣 龍田川原の 柳かげ すずみに来つつ 馴らすころかな

新古今集 素性法師
惜しめども とまらぬ春も あるものを いはぬにきたる 夏衣かな

顕輔
夏衣 ひとへに辛き 人こふる わが心こそ うらなかりけれ

頼政
夏衣 高フいろも かはりせば 心の内や 涼しからまし

俊成
花の色は 忘れずながら 夏衣 うすきにもまた うつる心か

新古今集 慈円
散りはてて 花のかげなき このもとに たつことやすき 夏衣かな

定家
夏衣たつたの山にともしすといく夜かさねてそでぬらすらむ

定家
なつごろもたつは霞のせきなれや春の色をもへだてつるかな

定家
たづねいるならの葉かげのかさなりてさてしもかろき夏衣かな

良経
重ねても涼しかりけり夏衣うすき袂にやどる月影

良経
花の色の面影にたつ夏衣ころも覚えず春ぞこひしき

定家
ぬぎかへてかたみとまらぬ夏衣さてしも花のおもかげぞたつ

雅経
袖のいろに なれにし花の からにしき たたまくをしき 夏衣かな

定家
夏衣かとりのうらのうたたねに浪のよるよるかよふ秋風

定家
夏衣おりはへてほす河波をみそぎにそふるせぜのゆふしで

家隆
夏衣へだつともなき袂にも猶よそにこそ風は吹きけれ

芭蕉野ざらし
夏衣いまだ虱をとりつくさず

老ひとつこれを荷にして夏衣 嵐雪

旅涼しうら表なき夏ごろも 几董

晶子
加茂と落ちて 欄に分るる 高瀬川 水の人よぶ 夕夏ごろも

烏鷺に似し客二人あり夏衣 碧梧桐

牧水
少女子の 夏のころもの 襞にゐて 風わたるごとに うごくかなしみ

水盤に行李とく妻や夏ごろも 蛇笏

唇の玉虫色や夏衣 鷹女

やははだのはしばしみゆる夏衣 草城

我訪へば彼も達者や夏衣 たかし

道道を飛び去り来てや夏衣 耕衣