松本たかし
短夜や古人の句にも寝ぬ病
しほれたる花を左右や花菖蒲
門前やいま若竹の滑川
麦打の遠くの音の眠たけれ
多摩川の河原の内の夏野かな
ふとぶとと氷一字の旗よろし
麦笛を吹けば誰やら合せ吹く
麦笛を吹くや手賀沼筑波山
卯の花や流るるものに花明り
炭竈や夏草生ひて蜥蜴這ふ
睡蓮や鯉の分けゆく花二つ
菖蒲見や期したる雨の一こぼれ
風落ちて谷底の百合動く見ゆ
起ち上る風の百合あり草の中
草山に浮き沈みつつ風の百合
我訪へば彼も達者や夏衣
青蔦やこれなる石を金縛り
甘草の咲き添ふ石の野中めき
避暑人の住み交りをり圓覺寺
冷房の高島屋あり街の夏
水着きたる茶色の肌の人形かな
蘆の湖の桟橋に佇つ夜の秋
山宿の夜の秋なる読書室
夜の秋箱根土産をひやかしぬ