卯の花と其に似し花と谷間ゆく
緑蔭の天井に日の砕け散り
幹高く大緑蔭を支へたり
人の香の人を包めり梅雨暗し
流水に草の小島や蛍待つ
島の燈か非ず鯖火よ波がくれ
烏賊火もゆ華やかに燃ゆ音もなし
避暑人も町人も来る大湯あり
葭切や竝び静もる釣人に
朝顔の双葉の落す影正し
時もなく籠り暮しぬ梅雨暗し
濡れ光る大芭蕉あり梅雨暗し
徐ろに黴がはびこるけはひあり
白絣肌にまとひて夏桔梗
さらさらと肌につかずよ白絣
花園の西日に蝶の散らばれる
花びらを巻いて薔薇の尖るかな
白薔薇の花の尖りの弛みたる
石卓の肌理滑らかに紅薔薇
出刃の背を叩く拳や鰹切る
城壁を梅雨晴の蝶又のぼる
空濠の草の夏蝶心あれや
鵜を語る言葉しづかの鵜匠かな
鵜匠鵜を調べゐる間を暮色かな
逸り鵜を騒がず遣ふ早瀬かな